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展覧会「静岡の系譜 - 80年代から現代まで -」

地域の中で芸術家として生きる人々

『静岡の系譜 - 80年代から現代まで- 』は地方/地域という視点から、静岡の美術を見つめ直す展覧会。現在活動を続けている世代の違う10人の美術家による作品展示と、70年代より活動を始めた作家および関係者のインタビュー映像、80年代に行われたグループ展を中心とした図録やドキュメント展示で構成しています。

地方でも芸術を実践する者はけっして少なくありませんが、その全体を一つの状況として捉える視点はあまりなかったといえるでしょう。創造の出発点は常に個人によりますが、その源泉には個人を取り巻く環境が含まれています。だとすれば同じ地域社会で暮らす美術家同士に何らかの有機的な関係性を見て取ることも可能かもしれません。芸術活動が個の営みに終らずに、過去から現在という時間、地域という空間によって繋がっているとしたら、芸術の風景というべきものが立ち現れてきそうです。

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たとえばひとつの芸術風景として立ち現れてくるのは美術教育を通した師弟関係とでも呼ぶものかもしれません。静岡に限らず地方の芸術家は中高または大学で教える教育者でもあることが多く、教え子たちは芸術家となり創作活動を行う者もいるでしょう。または美術教師、学芸員、芸術振興に関わる者として創作の現場に関わっている者もいるはずです。80年代後半に静岡で活発に活動していた芸術家グループに「A-value」があります。やはり彼らの大半は高校教師や大学教授でした。またそれ以前に活動していた前衛美術グループ「幻触」のメンバーも大半が教育者でした。このように静岡の芸術を考えるときに教育者としての芸術家の存在を無視することはできません。このような師弟関係を軸として広く芸術に関わる者を紹介するのが本展の主旨です。また展覧会コンセプトを補完する企画として関係者のインタビュービデオを上映し、80年代のグループ展の記録集を中心とした資料を展示します。

展覧会データ

『 静岡の系譜 - 80年代から現代まで - 』
作品展示、ドキュメント映像、関係資料展示
企画:オルタナティブスペース・スノドカフェ
前期:2014年2月11日(火) - 2月27日(木)
後期:2014年3月4日(火) - 3月23日(日)
時間:12:00 - 19:00
会場:GALLERY UDONOS(前期)
   オルタナティブスペース・スノドカフェ(前期・後期)
休廊日:月曜日(火、水曜日はスノドカフェのカフェ営業は休み)
入場無料
備考:展示作品の一部は前期のみとなります。

出展者 / exhibitor

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冨永圭志 TOMINAGA Keishi

1960年 焼津市生まれ
1978年 静岡県立吉田高校卒

冨永圭志は画家でありながら美容師という側面も持つ。彼は1990年中期より仲間たちと「11(イレブン)」を組織し、グルーブ展を静岡県美術館県民ギャラリーなどで活発に行った。現在は自身の経営する美容院「K Happy」をギャラリー「Yellow passion」としても活用し、地元の芸術の活性に注力する。新人作家への助言や発表の機会を与えるなど後進育成も積極的に行う。

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丹羽菜々 NIWA Nana

1962年 静岡市生まれ
1990年 静岡大学教育学部美術科卒

丹羽菜々は美術家の父を持ち、幼いことから美術が近くにあった。大学卒業後、美術教師になり生徒たちに美術の楽しさを伝えながら、作家活動を始める。30代は学校の仕事も忙しく制作が遠のいたが、10年前くらいから創作に重点を置き、活発に作品発表を行うようになる。現在も美術教育に関わりながら、自身の作品作りに励む。「拡がる」と「endless」をキーワードに、「here and there」と題してシリーズで制作している。

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鈴木さと美 SUZUKI Satomi

1967年 静岡市生まれ
1987年 常葉学園短期大学美術デザイン科卒

鈴木さと美は短大卒業から今日に至るまで、精力的な創作活動を行っている。公募展やコンペティションの受賞経験も多く、美術家としての階段を着実に昇っている。地方で活動していると批評の機会も少ないく客観的な評価を受けることは難しいが、外部に向けて積極的に発表していることに美術家としての覚悟を見てとることが出来る。現在では蓄光塗料を用いた作品作りに取り組んでいる。。

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小林由季 KOBAYASHI Yuki

1970年 焼津市生まれ
1990年 常葉学園短期大学美術デザイン科卒

小林由季が卒業するころの日本の美術界は現代アート(現代美術ではなく)が花を咲こうとしている時期だ。在学中にこれまでとは違う芸術、美術、アートに敏感に反応した少女は、ギャラリーやトークイベントに足繁く通い、次代の空気を吸っていた。それから20年あまりが経ち、現代アートの重要な表現手法であるインスタレーションを用いた作品作りを行いながらも、現代アートに特別な意識を持たなくなったようだ。それよりも自分にまわりにいる人たちに届くアートを考え実践するようになった。それが小林の現在のアートである。

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洋子 YOKO

1971年 藤枝市生まれ
1994年 静岡大学教育学部美術科卒

地元大学で教育美術を学ぶ。卒業後から作家活動を行い、冨永氏とともに「11(イレブン)」で作品を発表する。美術館の教育スタッフや中学校の美術講師など教育現場を長く経験した。現在はそのキャリアを活かし美術教室を主宰する。作品は絵画がメインだがインスタレーションもこなす。地方には珍しくセクシャルな主題を持ち込むが、抽象的であったり、可愛らしい描写であるため鑑賞者はほぼそれに気付かない。この人知れず仕組まれた毒がこの作家の持ち味である。

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内海健夫 UTSUMI Takeo

1974年 静岡県小笠郡大東町生まれ
2001年 常葉学園短期大学美術デザイン科研究生修了

日々に出会うささやかな風景を作品にする内海は、ゼロ年代の現代アートの傾向だったマイクロポップと親和性があるのかもしれない。しかし都市で生み出されたマイクロポップがその身体性の希薄さからくるものとすれば、内海の日常はあまりにも違う。彼が暮らす場所は草木の匂いが立ちこめる田舎道であり、空を写し出す水たまりができる空き地がある。その空間に身を置いていることを常に感じながら、黙々と制作を続けている。作品は自然(nature)のように驚くほどさりげないが、それゆえにこちらの関わり方ひとつで豊潤な世界を見せる。

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鈴木淳夫 SUZUKI Atsuo

1977年 愛知県豊橋市生まれ
2001年 静岡大学大学院教育学研究科修了

鈴木敦夫はこの10年ほど一貫して同じ技法で制作に取り組んでいる。それはcarved paintingと呼ぶ、彼独自の絵画手法である。パネルに何層もアクリル絵の具を重ねて下地を作る。それを彫刻刀で彫ることにより重なった色の断片が現れる。丹念に彫りを繰り返していくとそれらがパネル全体にリズムを生み、図となって絵画が立ち現れてくる。画面から作為を読み取らせない為に抽象的な作品の傾向にあったが、最近では意図的に彫りの流れを導き、最小限の形を描くようになったという。彼と静岡の付き合いは静岡大学、大学院の6年だけだが、静岡での生活は彼の創作に大きなインパクトを残した。

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typhoon soup

1979年 横浜市生まれ
1999年 常葉学園短期大学美術デザイン科卒

力強い重機をクレヨンやシルクスクリーンなどの技法を自由にミックスして描くtyphoon soup。大の音楽ファンらしく躍動感のあるビートやダイナミックなリズムを感じさせる。仲間にミュージシャンも多く、CDのアートワークやフライヤーデザインなど引き受ける。得てしてデザイン的バランスの良さに目がいくが、彼女の重機への想いは軽やかさというよりもっと深く一途である。それはパーツごとに組み合わして制作している重機シリーズに見てとれる。アーム部やキャタピラ、操縦室などをコラージュ的手法で1台にまとめあげているが、その部位の分け方にフェティッシュなものを強く感じる。

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ありえだなお ARIEDA Nao

1989年 静岡市生まれ
現在 静岡大学大学院教育学研究科美術教育専修

ありえだなおは現在静岡大学大学院で美術を学んでいる。指導教官はドキュメンタリー映像「静岡の系譜」に登場して頂いた白井嘉尚教授である。大学で美術を学びだしたころ、彼女は伝統的絵画に違和感を持ちなかなか筆を進めることができないでいた。ある時、おそるおそる提出した漫画的なコラージュ作品を白井教授がなかなか良いのではと認めてくれたということだ。それ以来自信を持った彼女は自分の表現に邁進していく。昨年末にここGALLERY UDONOSで開催した初個展は完成度の高い作品によって空間を満たしていた。学生にとってはハードルが高い機会だったと思うが彼女ならできるだろうとオファーした期待に十分に応えてくれた。今春で卒業しいよいよ社会人の仲間入りだが、作品制作の継続を期待したい。

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近藤大輔 KONDO Daisuke

1990年 富士市生まれ
現在 常葉大学造形学部造形学科アート表現コース三年生

次代の風を送り込める者は「よそ者・ばか者・若者」と相場が決まっている。硬直しやすい地域社会で彼ら/彼女らを受け入れるのは考える以上に困難が伴う。安定を志向することに罪はないが、変化を恐れるあまりに盲目的な否定になってはいけない。現在大学で美術を学ぶ近藤はこの風を送り込む気概のある若者にみえる。体力任せの活動は微笑ましいがその若さこそが武器であることを自覚しているようだ。創作では絵画表現に重点をおいている。絵画の歴史への参照、同世代との恊働制作、グループ展の企画など新しい絵画を求め、現代を全力で疾走する。